健康保険・厚生年金保険などの社会保険は、会社や従業員の事情に関係なく加入がが義務づけられており(一部の個人事業者を除く)、未加入や脱退は認められていません。もし、会社が社会保険等への加入義務を怠っていた場合、経営上どのようなリスクがあるのでしょうか。
社会保険の届出を怠っていませんか?
<事例>年金事務所の調査が入った!
社員15人を抱えるA社では、労働保険には加入していましたが、「社会保険は高すぎるH
との理由で社長しか社会保険に加入していませんでした。ある日、将来や現状に不安を覚
えた社員が年金事務所に相談した結果、調査が入ることになりました。
社会保険(健康保険、厚生年金保険)は、社会保障制度の一環として国が運営する公的
保険であり、法令によって会社と従業員に加入が義務づけられています(図表1)。
最近、社会保険の未加入や保険料の未納付などが問題となっており、「社会保障と税の
一体改革」を前に、監督機関の調査も厳しくなる可能性があります。
社会保険料は、健康保険と厚生年金保険の保険料を会社と従業員との折半で負担しま
す。仮に、会社が社会保険に未加入だった場合、あとで保険料の遡及納付を求められたり、罰金を科されたり、従業員からの損害賠償などの経営上のリスクを負うことになります。事例のケースでは、次のようなリスクが考えられます。
社会保険料の遡及納付が求められる
社会保険の加入手続きを怠っていたA社は、最大で過去2年分まで遡って社会保険料を納
付しなければならない可能性があります。
事例のケースでは、社員15人で平均給与30万円の場合、会社負担分と社員負担分を合わ
せて、約2,800万円(※)になります。
いきなりこのような金額を請求されても困ってしまいますが、社会保険料の2年分とな
るとその負担はとても大きくなります。
※社会保険料77,676円×15人×24か月(東京都の例)
図表1 社会保険の種類と加入義務
種類 | 給付内容 | 加入義務 |
---|---|---|
健康保険 | 業務外の事由でけが、病気になった場合に保険給付される |
|
厚生年金 | 老齢、障害、死亡について、年金が給付される |
社員にも過去に遡って保険料を納付してもらうために、社員の同意が必要となり、説
明も一苦労ですし、給与関連書類をすべて訂正する必要があります。
また、未加入だった期間は、社員は自分で国民健康保険・国民年金に加入しているはず
ですから、その差額の精算も大変です。
損害賠償を請求される
事例のケースにおいて、10年前から社会保険に未加入の場合、加入は最大10年前から認
められますが、保険料は、2年分しか遡って納付できません。
会社が社会保険に未加入であったことで年金のカラ期間が生じ、社員が「年金受給資格
期間に満たない」「本来受給すべき年金額に満たない」などの不利益を被ることになり、
その損害賠償責任を負う可能性があります。
実際に、社員が会社に対して損害賠償を求めた例もあります。
社会保険の未加入には、経営上のリスクがあることを十分理解しておきましょう。
<事例>社会保険への未加入を理由に社員が会社を訴えた!
会社が社会保険の被保険者資格取得を届け出る義務を怠ったために、社会保険に加入で
きなかった元社員Bが、会社を相手取って損害賠償を請求する訴えを起こしました。
判決では、会社の行為は違法であり、労働契約上の債務不履行にあたるとして、元社員
Bの損害賠償請求を認め、会社に387万円余の支払いを命じました(図表2)。
図表2豊国工業事件(奈良地裁判決平成18.9.5)