労働時間に対する認識不足や誤解が、労務トラブルにつながる事例があります。労働時間と残業時間についての基本をおさえておくことで、トラブルを避けるだけでなく、就業規則の整備にも役立ちます。
機械メーカーの品川工業では、品川社長と総務の上野課長が、残業をめぐる労務トラブルなどを未然に防止するために、その対応について話し合っていました。
1「法定」と「所定」2つの労働時間の違いは?
(上野課長)社長
うちの労働時間は、正式にいうと、9時~17時でしたよね。18時ではな かったですよね。
(品川社長)
うちの会社は、よくある「クジゴジ(9時 ~17時)」だよ。なんだ今さら?
(上野課長)
いえ、法律では労働時間は8時間だと聞いたものですから……。当社は、休憩時間(1時間)を除くと7時間勤務になりますね。法令上、問題になりませんか?
(品川社長)
???……。訳がわからん。よく調べてくれないか?(後日)
(上野課長)
雇用契約書や就業規則を確認したところ、当社の労働時間は、社長が仰るとおり、9時~17時でした。調べたら、労働時間には、「法定労働時間」と「所定労働時間」という考え方があるそうです。
(品川社長)
法定? 所定? どこが違うの?
<解説>法定労働時間と所定労働時間
1. 法定労働時間
労働基準法(32条)で定められた時間です。1週間につき40時間、1日につき8時間までと定められています。「~まで」となっているのは、すべての労働者の労働時間を一律に定めているのではなく、上限を8時間と定めていることに注意しましょう。この上限時間は、原則として、個々の企業で自由に変えることができません。
2. 所定労働時間
法定労働時間の範囲内で、会社が決定した労働時間です(1日7時間、7時間30分など)。9時始業で17時終業(休憩1時間)の場合、所定労働時間は、7時間となります。
図1 法定労働時間と所定労働時間
2 休憩時間は何時間必要なの?
(品川社長)
では、当社は「所定労働時間を1日7時間」と決めているわけだね。設立当時 は、そのようなこともわからずに決めていたな…。ところで、休憩時問は1 時間で問題ないのかな?
(上野課長)
1時間で問題ありません。当社は、所定 労働時間が7時間のため、休憩時間は45分でも良かったのですが、1時間と定め ても大丈夫です。ただし、1時間と決めているものを45分に短縮することは労働条件の不利益変 更になるため、簡単にはできないようです。
図2 休憩時間
1日の労働時間に応じて、次のように労働時間の途中に、休憩時間を一斉(原則)に与 えなければなりません。ただし、1日の労働時間が6時間未満の場合は、休憩を与えなくても問題ありません。
3 定められた労働時間を超えると?
(品川社長)
ところで、うちの場合、残業の割増貸金は、法定労働時間の8時間を超える18時から支払えばよいのだろうか、それとも終業時間の17時から支払うのが正しいのだろうか?
(上野課長)
残業は、労働時間と時間外労働時間についての理解がないと、混乱してしま います。また、残業させるためには、残業についての規定が就業規則などに必 要になり、一般に社員との間で協定を結ぶ必要があるようです。
解説 残業(時間外労働時間)
残業時間のことを、法令では時間外労働といいます。残業には、法定内残業と、法定外 残業があります。なお、1日の労働時間だけでなく1週の労働時間でも同様に、法定内残業、法定外残業 が生じ得ます(例:休日出勤した場合)。
法定内残業 | 所定労働時間が終了した時刻から、法定労働時間(1日上限)である8時間にあたる時刻までの部分の残業 |
法定外残業 | 法定労働時間であう(1日)8時間を超えて残業した部分 |
品川工業の場合、法定内残業の部分には、社内で取り決めた賃金が発生します(割増な しの時間単価を支払うことが一般的です)。法定労働時間を超えた18時以降の部分には、割増賃金が発生します。