決算書は経営のカルテ② 一貸借対照表と資金繰り-
貸借対照表(バランスシート)と聞くだけで、顔をしかめる人もいるようですが、決して難しく考える必要はありません。貸借対照表から、短期的な入金と支払いの予定など資金繰りの現状を見ることができます。
貸借対照表を経営に生かしていますか?
多望社長は、財務の話が苦手ですが、顧問会計事務所の所長が来たので、気になることを聞いてみました。
多望:
最近、資金繰りが苦しくなってきているんですが……。
所長:
資金繰りの現状は、貸借対照表からも掴むことができるんですよ。ちゃんと見ていらっしゃいますか? 多望:どうも財務は苦手で……。
所長:
貸借対照表の借方にある流動資産を見てください。(図表1)
この流動資産には、現預金をはじめ、短期的(1年以内)に現金化する受取手形や売掛金などの売上債権と商品や製品などの在庫(たな卸資産)があります。 どうやら、御社の場合、売上債権や在庫が多すぎるようですね。
売掛金や在庫が増えると資金繰りが苦しくなる
多望:
短期でお金に変わるのなら、流動資産は多いほどよいのではないのですか。
所長:
いや、そうとは言えないんです。流動資産でも、現預金が多い分には問題ないのですが、売上債権や在庫は、手元の資金としては使えないため、これが多すぎると資金繰りが苦しくなるのです。
多望:
えっ、そうなんですか。
所長:
掛売りの場合、売上代金が現預金として入金されるまでにタイムラグがあり、その間、仕入代金の支払い、借入金の返済、給与や経費などの支払いが発生します。
たとえば、年間の売上高が3億円あるとして、1億5千万円の売掛金を抱えたとすれば、およそ半年分の売上代金が入金されていないことになります。すると、入金されるまでの間に発生する支払いのために、何らかの資金手当てが必要になります。
多望:
なるほど、だから資金繰りが苦しくなるのか。でも、在庫が多いとどうして資金繰りが苦しくなるんですか。
所長:
在庫は、将来の売上となる元手をいくら抱えているかを表しています。しかし、在庫そのものは現金ではありませんので、在庫が商品として販売され、その代金が入金されるまでの問は資金手当てが必要になります。
多望:
売上高に比べて売上債権や在庫を多く抱えることは、それだけ資金繰りが苦しくなるわけなんですね。
所長:
売上債権が大きすぎると、貸し倒れの危険率が高くなり、在庫が多いと売れ残りなどの危険性も高くなるため、経営上のリスクが高くなります。これは、金融機関から見ても要注意ポイントです。
多望:
資金繰りというと、銀行からの借り入ればかりを考えますが、それだけじゃないのですね。
所長:
売上債権は、得意先ごとの回収サイトが守られているかをチェックしてみてください。それと、在庫の中に、滞留在庫や過剰在庫が含まれていないかもチェックしましょう。
決算書を上手に活無しょぅ!
所長:
社長、次に貸借対照表の貸方の流動負債を見てください。流動負債には、買掛金や支払手形などがあり、短期に支払いが必要な金額がいくらかを表しています。御社の場合、仕入れに対して買掛金が少ないようですが。
多望:
うちは仕入単価を抑えるために、現金仕入れも多いんです。
所長:
現金仕入れよりも掛仕入れのほうが、支払いに時間的な余裕が生まれるため、資金繰りが楽になります。
ただし、多額の支払手形で資金繰りを回しているような場合は、売上が急激落ち込んだりすると、不渡りの危険が高くなるので要注意です。
いずれにしても、最終的には、買掛金も支払いが必要ですから、資金繰りをよくするためには、利益をしっかり出すことが大切なんですよ。
多望:
なるほど、貸借対照表をよく見ると、いろいろなことがわかってくるのですね。
所長:
今日の話は、ほんの一例ですが、貸借対照表も含めて決算書は、会社の健康状態がわかるカルテのようなものなんです。上手に活用して経営改善に役立ててください。