―消費税増税の前に当局の姿勢が厳格化
消費税増税を前にした、税務当局のある動向が話題になっている。「帳簿の記載要件」を満たしていないことを理由に、仕入れ税額控除が認められないというケースが散見されるようになったのだ。前出の畑中孝介税理士はいう。
「今年に入ってすでに、記載要件漏れで消費税の控除が否認されるケースを数件耳にしていますね。1件は取引先の名称が記載されておらず、課税仕入れの控除が全額否認されたといいます。そうなれば売り上げの数%の利益相当額が一瞬にして吹き飛ぶことになり、場合によっては過去にさかのぼって否認されるかもしれません。延滞金や過少申告加算税なども含めるとなると、企業の存続にかかわるようなケースも出てくるのではないでしょうか」
控除されることを見込んでいた金額が突如として認められなくなるというから大変である。しかしそもそも仕入れ税額控除の記載要件とは何か。消費税法第30条第8項では、仕入れ税額を控除するために帳簿に記載すべき取引内容について次のように定めている。
- 課税仕入れの相手方の氏名または名称
- 課税仕入れを行った年月日(課税仕入れを行った年月日が異なる場合にはその日付も)
- 課税仕入れに係る資産または役務の内容
- 課税仕入れに係る支払い対価の額(税込み)
畑中氏によると、大手ベンダーが提供している会計システムやERP(統合業務)パッケージでは、「取引先欄と摘要欄が一行になっている」などこの規定がそもそも意識されていない仕様になっているケースも多いという。そのためこの記載要件を満たしていない事例は潜在的にかなりの数にのぼることが懸念されているのだ。
注意が必要なのはこれだけではない。この仕入れ税額控除を受けるためには、帳簿と請求書それぞれに取引の内容を記載しなければならないのである。
「消費税法第30条7項には、税額控除を適用するためには『帳簿および請求書等』」の保存が要件になると明確に定められています。しかし消費税導入当初はこの文言が『帳簿または請求書等』だったので、『請求書に書いてあるから帳簿の記載は不要』と考えている経理担当者はまだ多い。こうした誤解をただし、記載要件を満たした帳簿と請求書双方をしっかり保存しておくことが重要になります」
課税適正化の「本丸」
税務調査は通常、法人税がメーンの対象で、付随的に消費税を調査するのが一般的だが、「大規模法人などでいきなり消費税の調査に入る」(畑中氏)ケースがおととしあたりから出始めているという。なぜここにきて当局は税額控除の記載要件のチェックを厳格化しているのか。
「2段階の引き上げ後の消費税額はこれまでの倍になります。したがって消費税の取り漏れがある場合はその額も2倍で財政に与える影響も大きくなることから、『本来還付されるべきでないものを還付するわけにはいかない』と記載要件に合致していないものについては否認するスタンスに変わりつつあるのではないか、とみています」(畑中氏)
確かにここ数年の税制改正では、事業者免税点制度における基準期間の見直しや自販機スキームの禁止、95%ルールの改正など消費税の課税適正化に関連するものが目立っていた。消費税増税を前にした「外堀」を埋める一連の作業が25年度の税制改正でひとまず終わり、いよいよ「本丸」の記載要件の適正化に本腰を入れつつあるのが現状だという。畑中氏はこう警告する。
「昨年あたりまでは脅しのレベルでしたが、今年に入り実際に否認事例が発生しびっくりしています。国税の動きは相当早い。そもそもこれは税務コンプライアンスの根幹にかかわる問題で、否認されたらそれを覆すことはできません。帳簿の記載要件のチェックや調査、否認件数は今後急増すると思いますが、この消費税増税のタイミングで適正化を念願に置いたシステムをきちんと選ぶ経営判断も必要でしょう」